good boy, sacra!



「勿論こちらは『特殊狩猟用』の犬となります。見ての通り体も脳もすべて機械でできています。ただ、犬の美点である『飼い主への忠誠心』を忠実に再現するために、機械でありながら感情を育むことがこのサイボーグ犬の特徴となっております。感情を持ちますので飼い主の感情に寄り添い、喜怒哀楽を共にする事もあります。飼い主の気持ちに同調しますのでご注意ください。『狩猟』を行ううえでそれを不都合に思われる事もあるかもしれませんが、逆に想像以上に役に立つこともあります。この子は頭も良く素直でいい子ですよ。」

 ブリーダーは一通りの説明を終えるとにこやかな笑顔を浮かべ「何か質問は?」と問い掛けた。

「取扱説明書もありますし、特には」

 賢そうな犬を確認しながら答えると

「では、この子の名前を呼んであげてください。それであなたを飼い主と認識しますので」

と、これからの飼い主に促した。それに黙って頷き、膝をついて行儀よく座ったまま動かない(まだリセット状態だから当然なのだが)機械の犬の目を正面からしっかりと見つめ

「サクラ」

と呼び掛けた。



 その後、チャールズはサクラと共にアパートメントにむかった。
道では普通の犬同様にリードを付けたが、よく躾られたように何の不都合もなく、なるほど確かに頭のいい犬なのだろうとチャールズは思った。並んで歩いていると、たまに見上げてこちらの様子を窺い尻尾を振るのも微笑ましい。
 家に着き「今日からここがお前の家だ」と教えてやれば、レンズの瞳をくるくると回して家中を記憶する様子を見せる。
 動物に触れ合う機会の少なかったチャールズには、サクラとどう接したらいいのかわからず戸惑うこともあったが、「よく話し掛け、スキンシップをはかってください」と言われたので、とにかく話し掛け、またメンテナンスもまめに行った。
 特にこれまで一人で暮らしてきたチャールズにとって話し相手ができるということは想定外に心地の良いものだった。
 これまで自分がしてきた「狩り」について、また自分の生い立ちやその時に考えていることなどを言葉でこそ返事はしないが黙って耳を傾けるサクラに向かってあれこれと語るのは心が軽くなったように感じられた。

 時が経つにつれ、サクラはチャールズにとってなくてはならないパートナーとなった。





 サクラと共に狩りに赴くのも随分と慣れたころ。
 ターゲットの吸血鬼の住まう屋敷を遠くから見据えチャールズはサクラに念を押す。

「今日の敵は、今まで相手した奴らとは比べものにならないぞ。いいな」

 サクラが戦闘モードに入るのを確認すると共に屋敷に向かい疾走する。


 屋敷に近づくとターゲットの気配を感じる。庭にいるのだろうか、と更に気配を探ると、先にターゲットに気が付いたサクラが飛び掛かる。


「わぁ♪かぁわいいなぁ〜。なにコレ、チェリーの犬?」
「ワン!」
「あ〜よしよしっ。いい子だなぁ♪」
「キャウンキャウン」

 レイフロに飛び付いて撫でられるとサクラはうれしそうに尻尾を振った。
 チャールズはその様に戦意喪失し思わず脱力してしまう。

「サクラ?」
「あ、サクラっていうんだ、この犬?なんか飼い主のチェリーに似ててかぁわいい〜♪♪♪」
「クゥン♪」



 ブリーダーは言ったのだった。

「飼い主の気持ちに同調しますのでご注意ください。この子は素直ですよ」と。







チェリーとサクラの出会いを捏造してみました。
タイトルは英語版『vassalord.』のチェリーの台詞からv

今年最初の短文がサクラとチェリーの話になるとは^_^;
でも、今回原作のサクラが可愛かったので♪

「名前を呼んで主人認識」は映画「A.I.」(タイトルうろ覚え)のパロです。


2011.01