razor |
---|
クリスマスと新年を迎えるこの時期、知人の少ないチャーリーにさえパーティの招待はちらほらと舞い込んでくる。 もっとも、賑やかなな場が得意ではなく、また多くの人に顔が知れることを望んでいないチャーリーは、何これと理由をつけて丁重に断りを入れるのだが、それにも限界がある。特に世話になっている教会関係者の誘いは断りにくい。 「なに、気にすることはないよ。ごく身内だけのパーティなのだから」 そうM氏から誘われた時は、表面でにこやかな笑顔を保ちながら内心は大いに逡巡したのだった。M氏は教会関係の知り合いで、信仰も深く謙虚でありながら屈託のない人柄に好感を持ちチャールズにとっては珍しく、いくらかの交際をしている人物なのだった。またちょっとした資産を有しているらしくボランティアなどでどうしても必要になる経費を彼は裏方から支えてもいた。信仰の場でもちょくちょく顔を合わせる彼に人付き合いが悪い失礼な人間と思われ気まずくなるのは避けたかった。そしてなによりも穏やかでありながら快闊な彼と信仰について語り合うのは、心の洗われるような清々しい時間でもあった。 少し考えた後、チャールズは了承する旨を伝えた。 「それではお言葉に甘えて、お邪魔させていただきます」 その言葉を聞くとM氏は顔をほころばせ心底うれしいという素振りをした。 「気軽に来てくれるといいよ。あぁ、それから。せっかくだから誰か大切な人を連れてくるといいよ」 「・・・・・・ありがとう、ございます」 要は同伴者が必要なパーティということなのだ。早くもチャールズは招待を受けたことを後悔しはじめたが、言葉を翻すわけにもいかない。少々顔が引きつってしまったのは仕方がなく、なんとか感謝の言葉だけを絞り出した。 「ふ〜ん、それで?そのパーティにパパも連れて行ってくれるって?」 早速家に帰って同居人であるレイフロに話を持ち掛けてみたのだが、どうしたことか乗り気ではない様子。普段であればチャールズからの、ましてやパーティの誘いであれば、話の内容を最後まで聞かないうちに「yes」の返事と必要以上なはしゃぎっぷりを見せるのに、今回はまるで「行きたくない」とでもいうような口ぶりをする。 「だって、普通は同伴って言ったら異性を連れてくるもんだって思うだろう。こんなむさいパパを連れて行けば悪目立ちするんじゃないのか?」 「私に女性の友人がいないのはご存知でしょう」 「そんなの、知り合いの女をちょちょいと引っ掛けてだな」 「あなたじゃあるまいし、女性を口説くなんてこと私にはできませんよ」 チャールズとしては即快諾してくれると思っていたところを拒むように返され、思わずたたみ込むように口調が早くなる。 「ん〜、口説くっていうかぁ」 レイフロのかっちりとした両手がチャールズの頬を包む。大切な物を触れるように柔らかな手に反して言葉は素っ気ない。 「チェリーがこの顔で、いつも通りの誠実さで真面目にオネガイすれば、だいたいの女は断らないだろ?」 何を思って女性を誘えなどと言うのか、チャールズには分からず混乱した。今までも何回かワイフやパートナーを捕まえろなどと言われたことはあったのだが、その度にチャールズは混乱する。自分に必要なのは若くて美しい女性などではないというのに。 「・・・分かりました。残念ですが。知り合いの女性にあたってみます」 混乱して言葉が見つからず、そのせいか口から出た言葉は思ってもいないことだった。行く気がないという人間を無理矢理パーティに連れていくこともないだろう。招待主に多少失礼なことにはなるが、仕方がないので一人で行こう、と踵を返す。返したとたん首から垂れたコードを引れ頭がぐらりと後ろに揺れた。 振り向くとレイフロがコードを掴み不服そうな顔をしている。 「なんなんですか、あなたは!」 「男心の分からんやつめ。『どうしてもあなたと行きたいのです』とか『大切な人はあなただけです』とか言えんのかよ。おまえはそんなに簡単に引き返すのか」 「・・・・・・つまり」 つまり、この目の前の薄く顎鬚を生やした、細くしなやかではあるがしっかりとした肉体を持った一見30代のオジサマで、その実、齢400歳を超える闇の長たる真祖ヴァンパイアのこの人は、パーティへの同伴をあっさりではなく熱心に誘ってほしくて屁理屈をこねていたということなのか。 あまりのことにチャールズは目眩がして額を押さえそうになるが、そういうことなら話は早い。早々に手を打つことにした。 「マスター。『どうしても、あなたと、行きたいので』ご一緒していただけますか?」 「仕方がない。どうも棒読みなのが気になるが付き合ってやってもいいぞ。なんといってもチェリーとのパーティだからな♪」 まったくこの人は、どうにも扱いにくくて困る。 |
ほ、本当はクリスマス前に上げるつもりだった文章なのですが、遅くなりましたすみません(汗)。 タイトルと中身が合ってないのも、続きを書くつもりだからなのですが、実際に続きを書くかどうかもまだ確定してません。スミマセン(>_<)。 メリークリスマス&ハッピーニューイヤー♪ 2010.12 |