※attention!!※
ぬるい内容ですがえち描写があります。作中ほとんど衣服がログアウトしてます。ご注意してOKな方のみお進みください。



between the sheets



「まさか自分にこんな自堕落な生活ができたとは、正直驚いてますよ」
 ベッドの上、ごろりと仰向けに寝返りをうってチャーリーは溜息をついた。

 仕事と仕事の合間にぽっかりと空いたスケジュールの空白は1週間。いつもなら仕事に必要な知識を蓄えるための勉強に費やす時間を、今回に限って親孝行に使おうなんて考えてしまった。ここ最近忙しかったため、あまり相手をすることができなかったせいか少々ご機嫌ななめなマスターに、「少しまとまった時間があるのですが、どこかに出かけますか?」と伺いを立てると「そうだなぁ」なんて思案顔の後にひとつ提案をされた。

 「騙されたと思って俺に付き合え。損はさせないから。」

 ―――そう言われて、実際に付き合って。これでもう三日もベッドから出ていない。その間にした事といえば、食べること、求め合うこと、眠ること、それから話すこと。ただそれらの繰り返し。どこかへ出かけるどころか、家から(どころか寝室から)一歩も出ない休日となってしまった。
 もともとチャーリーはアクティブな性格ではないし、仕事関係の調べ物などがあればいくらでも部屋に籠っていられるタイプだ。昼型の生活をしていも、元来吸血鬼であるがゆえに陽の光を恋しいと思う事もない。それにしても、とチャーリーは思う。2メートル四方のベッドの上でこれだけ時間を潰すことができるなんて、今まで考えたこともなかった。
 今寝転がっているベッドも、当然ベッドメイキングなどはしていないから、シーツはふたり分の汗や血液や、他にもいろいろな体液を吸い取って、しっとりしているというよりも若干べたついていて気持ちのいいものではなかった。それでもベッドから出ようという気持ちにならないのだから不思議なものだ。
 匂いもお互いのものが混じり合って区別がつかない程。事の合間にレイフロは煙草をふかすからその匂いも。シーツだけでなく自分にまで染み付いていることだろう。くん、と自分の腕の匂いを嗅いでみるが、ここ数日のだらしない生活で嗅覚も鈍ってしまったのかさっぱり何も感じない。これでは吸血鬼どころか人間の嗅覚よりも劣っているんじゃないかとちょっと心配になった。
 今もレイフロはシーツに同化したように気だるげに横になりながら煙を吐き出している。
「悪くはないだろう?俺たちにはうんざりするほど時間があるんだ。少しくらいこうしてたって何の問題もない」
 ほわり、言葉と一緒にしろい煙が唇から洩れる。
 疲れた色を顔に落としているというのに至極満足そうな様子で問いかけるレイフロは、いつもよりも断続的に血液を奪われて貧血気味だ。ベッドの上には飲み終わった輸血用の血液パックもいくつか転がっているが、摂取するそばからチャーリに吸い取られて、ベッドの上だけで食物連鎖の輪が出来上がってしまっている。
「悪くはないですね。たまには、の話ですが。なにしろ食べたい時に食べたいものが常に手の届くところにある」
「まさに食べ放題ってわけだ」
 実際に手を伸ばして煙草を摘まんだレイフロの手の甲に唇を落とし、その手から直接煙草を口に含む。くすくす笑ったレイフロの目元に髪が落ちて影を落とした。戯れに肺まで吸いこんだ煙を吐き出したけれど、こちらはちっとも美味しくない。あまりにレイフロが美味しそうに嗜むものだからついつい欲しくなってしまうけれど、こればかりは個人の好みの問題だ。顔を顰めたチャーリーを見て、またレイフロは笑う。少し皮肉を混ぜた、でも奥に慈愛を隠し持っているこの顔が好きだと思った。
 考えてみればレイフロの顔をまじまじと見つめるのも滅多にあることではない。同居する前は、顔を見れば殺そうと身体が動いて剣を突き刺すことばかりを考えていたし、それ以降も事件に次ぐ事件でのんびりと過ごす時間は数えるほどしかなかったのだ。
 目元に影が落ちるのは、疲労だけのせいではなく、青年、というには成熟しすぎた肌が皺を刻んでいるから。だからといってそれが衰枯を感じさせるわけでもなく、逆に美しいとさえ思える。果実だって青く固い実よりも、熟れて柔らかくなったものの方が甘くて美味だ。
 ほつれて頬に張りついた黒髪を撫でつけて、そこに唇を寄せるとレイフロは顔をずらして「唇に欲しい」と態度で強請る。望まれた場所に口を付けると煙草の匂いが強くなった。お互いに酷使した唇はかさかさと乾いた感触がする、と思っているとあっという間に割れた舌で湿らされて、擦れたところにやわらかさが気持ちいい。気持ちがいいから、こちらからもと同じように相手の唇を舌でなぞる。意外と口の端は敏感なようでそこを何度も舌で撫ぜれば吐息が湿度を増すことも初めて知った。口を開けたまま舌を戯れさせるから唾液が溢れてお互いの顎を濡らす。「食事」をする時とは違った水音が合わせた場所から洩れる。行為がしやすいように固定するついでにレイフロの顎を指で拭った。湿った顎鬚は特に卑猥でいやらしいけれど嫌な感じはしない。
 素肌を重ねて唇と舌を合わせていると無意識に手はお互いの肌を滑り始める。肩のラインをなぞったり、頸を摘まんでみたり、耳朶を揉みこんでみたり。くすぐったくなって、くすくすと息を洩らしても口づけは止まらない。唇を合わせたままお互いに敏感なところを探って擽り合う。肌への刺激に慣れていないのはチャーリーの方で、
「く、はは、ちょっと待ってください」
 と身体を捩りながら顔を背けて根を上げると、その隙をついてレイフロが空いた首筋に唇を落とす。噛みつかれた、と思う程に強く吸われて、そこで生まれた感覚が下半身に熱を落とす。レイフロの手は動きを止めずに脇腹や腹筋の曲線を辿っていった。長く伸びた爪で皮膚をなぞられると堪らなくくすぐったくて背筋がぞくぞく震える。そればかりか首を吸った唇は鎖骨へ、筋肉でふくらんだ胸へと移動してチャーリーは慌てた。レイフロの髪は長くて癖があるせいで敏感になった肌に当たると堪らなくなる。
「ちょ、本当にくすぐったいです!」
 「くすぐったい」というのは言い訳で、実際には身体が熱を持ってしまうのを止められそうになかった。きっと自分の脚の間に片膝をついているレイフロには秘かに反応してしまっているのが筒抜けかもしれない。刺激を与えられればいくらでも欲しがってしまう自分の身体がはしたなくて恥ずかしいと思う。
 胸元を行き来していた頭を柔らかく掴んで制止させるためにやさしく上を向かせる。
 向かせた顔は悪戯に成功した子供のような得意げな顔をしているだろうと思っていたが、それは見当違いだった。実際には困惑した表情を浮かべていた。潤んだ目元を赤く染め、もどかしげに身を乗り出して笑いすぎて涙の浮かんだチャーリーの瞳に吸い付くからレイフロも欲しているのだと分かった。そういえば涙を見せる時は、いつも彼が舐め取ってしまう。チャーリーの涙にはレイフロを惹き付ける成分が含まれているのかもしれない。
「…どうしようかチェリー」
 甘さを含んだ声は、低く掠れて鼓膜を震わせる。



 グラビアモデルの経験がいけなかったのか、それとも恋心に気付いて頑なだった心が吹っ切れたのが災いしたのか。最近のチャーリーは色香を振りまき過ぎて本来はこちらの方が奔放だったはずのレイフロが「ちょっと待ちなさい」と引き留めてしまうほどの破壊力を見せている。
 誰をターゲットにして落とすのか、レイフロの場合は自分の魅力に自覚があるし使い方も心得ているから的確にコントロールすることができる。しかしチャーリーはその点無自覚なので四方八方にフェロモンを乱射して周囲の人間を腑抜けにしてしまうからいけない。これではまるで無差別テロだ。
 そんな自覚のないテロリストを野放しにするとどういうことになるか。グラビアのおかげでその顔がある程度世間に知れ渡っているせいで、街に出ればそこには熱い視線が集まるようになってしまった。これって一種の近所迷惑にならないか? 以前であれば、地味な雰囲気とピンと張りつめた空気を纏っていたので、整った顔にちらりと視線を向ける者があっても近寄ってくる命知らずは僅かだった。それが今では優雅な身のこなしにクールな振る舞いで、砂糖が蟻を寄せるようにチャーリーは人を寄せ付ける。もちろん誰かになびくわけがないのをレイフロは知っているが、ボディタッチを眉ひとつ動かさず受け流し、あまつさえ軽くウインクの応酬などして見せるところを目の当たりにすると、そういった一連の所作を「教育」したアルフォードに再度殺意を覚えずにはいられない。

 そんな奴が「少しまとまった時間があるのですが、どこかに出かけますか?」などと言うのだ。信じられない。当然、レイフロはそんな提案は却下し、仕事に疲れた体を癒してあげようという理由も付けて、部屋から一歩も外に出さない強行手段に出たのだった。だって我慢の限界な程にチャーリーを欲してしまっているのだから仕方がない。しばらくはベッドからさえ出すのも嫌だった。それを世間は軟禁と言うかもしれなかったがとんでもない。後悔させないだけの手管をレイフロは心得ていた。餌は十分に与えて甘やかす。実のところ自分も甘やかされてとろとろに蕩けている状態だったが結果オーライだ。
 結果オーライと心中呟きながら口からは甘い溜息しか出てこない。
 チャーリーを労わってやろうとキスをしてくすぐり合ったりして。それから全身の筋肉を解すように舌を手を這わせれば逆に彼の色香に酔わされて、奉仕精神の旺盛なチャーリーにあっという間に位置を取って代わられてしまった。たしかに欲しがったのは自分だけれど、と内腿を行き来するさらさらの髪を撫でる。脚の間にある形の良い頭部を見下ろすといつもより少しぼさぼさになった髪に、それでも天使の輪がはっきりと見える。脚を伸ばして彼の臀部を踵で撫でてやればぴくりと反応するから急所を咥えこまれたこちらにダイレクトに伝わる。吐息に笑みが混じる。調子に乗ってあちこちを踵で撫でてみた。チャーリーの咥内は気持ちがいいけれど、この数日で何度か吐き出して溜め込んでいないそこは欲を暴れさせることはない。寄せては返す波のようにゆったりとした快楽は長く緩やかに身を浸せられる。舐め擦っている方も出させようという意志はそれほどないらしく、他の場所にキスをする延長くらいの穏やかさで愛撫する。
「やば、…すごく気持ちいいかも」
 素直に感想を口に出せば、チャーリーが見上げて微笑むように目を細める。
 感想を聞いて俄然やる気が出たのか(もともとチェリーは煽れば煽るだけ燃えるタイプだ)動きがヒートアップしてきた。この数日の戯れでどこをどうすればレイフロが感じるのかを学習してしまったチャーリーに、さっきまでの心地良さは振り切られ、あっという間に追い詰められてしまう。



 レイフロが落ち着くのを確認してからやっとチャーリーは口を離すと、ベッドの上に用意しておいた綿のナプキンを使って口の中のものを吐き出した。ついでに舌も拭い清める。吐精したばかりでまだ心臓がどきどきしているレイフロはぐったりとシーツに沈みながらその様子に満足する。この後始末の仕方を教えたのは自分だった。

「血液とは違う味がしますね」
 最初に「それ」をした時、たぶん食事の延長としか思ってなかったのだろうチャーリーは当然のように口の中に吐き出されたものを飲みこんでしまった。顔を顰めて呟いた感想がこれだった。
「飲むなよ!」
 むしろ顔を青ざめさせてうろたえたのはレイフロの方だった。「きれいな」クリスにこんな事をさせるだけで背徳感に潰されそうになるというのに、飲み込んでしまうとはどういうことか?! 自分は被虐的思考はあるが綺麗なものを汚して楽しむといった嗜好はないのだ。むしろクリスには綺麗なままでいてもらいたい。まぁ逆の立場だったら間違いなく俺も飲むけどな! 自分の場合はいいのだ、なにしろ奔放に振る舞ってきた歴史は短くはないのだから今更だ。しかしクリスはいけない。とにかく飲んではいけないのだ! 酒飲みの親が未成年の子供に思うように都合のいい事を、顔を覆って延々と嘆いているレイフロにチャーリーは「いけませんでしたか?」と不思議そうにしている。
 クリスが「チェリー」でよかった。初心でそっち方面の知識が不足気味で本当によかった! ほっとしながらもレイフロは懇々と「これは飲んではいけないもので、もし口にしたら吐き出しなさい。舌もきれいにしなさい」と諭したのだった(はじめから口にしないように、という選択肢はレイフロにはなかった)。それに疑問を持たなかったチャーリーはベッドの近くにハンカチやナプキンを用意するようになったのだった。
 そして今、まさに食事の後のように口をナプキンで拭っているチャーリーがいる。口を拭う姿も男前過ぎて見惚れてしまう。見惚れるだけでは足りなくて、ぽんぽんと自分が沈んだシーツの隣をたたいて「おいで」と催促。
「こっちにおいで。腹も気持ちも満たされて、今度は何をしようか?」
 誘われるままに身を寄せると、チャーリーは足元に丸まっていたケットでふわりとふたりの体を包んでしまった。






 長くまどろんだ後の呆とした意識のままチャーリーはしわくちゃのシーツを撫でた。遮光カーテンの隙間から僅かに覗くのは陽の光で、今がまだ昼間だということが分かった。でも今日が何日なのかははっきりしない。長く眠っていた気もするし、僅かな睡眠だったかもしれない。
 ただ伸ばしてみた手は誰にも触れない。自分だけが寝転ぶベッドはつめたくて、他の誰の体温も残ってはいなかった。
「っ!!」
 まさか「また」置いていかれたのでは。
 その不安はハンマーががつんと頭蓋を殴りつけられたような衝撃だった。心臓がきゅっと縮みあがる。がばりと起き上がり、くらりと瞠目して手で目元を押さえこむ。慣れない惰眠を貪ったせいか実際に頭痛がした。
 それでもふらふらとベッドから起きて、チャーリーにしては珍しく部屋に散らかしたままにしていたスラックスに足を通して靴を突っ掛け、とりあえずリビングに向かう。

 リビングの扉を開けると、あまりに平和な香りが鼻をくすぐってぽかんとしてしまった。
「モーニン、チェリー?」
 リビングと続き間になっているダイニングのテーブルには、コットンのガウンを羽織った(せめて前はしっかり合わせてほしい!)だけのレイフロがのんびりとコーヒーを啜っていた。部屋に充ちていたのは香ばしいコーヒーの匂い。
「コーヒーを淹れようと思ったらさぁ、うっかり挽いた豆を床にぶちまけちまって結局ミネアに淹れてもらった。あ、お前の分もあるぞ」
 キッチンを見ればミネアがモップで床を掃除している最中だった。チャーリーは本日何度目かの頭痛を感じて額を押さえる。
「なんでまたコーヒーなんて。私たちには必要ない」
「翌日の朝はモーニングコーヒーを飲むのが醍醐味ってことを知らないのか? チェリーは」
 何の、とは言わない。だが、シャワーをまだ浴びていないレイフロの身体を見ればそれは一目瞭然で、ちらりとこちらを見たミネアの視線が痛い。もっとも数日部屋に籠りきりだったのだから、同じ家に住むミネアにとっては今更のことではあったのだが。
「ほらほら、おいで〜。一緒にコーヒーを飲もう。ミネアの淹れたコーヒーは旨いぞぉ」
 屈託なく呼ばれて仕方なくテーブルに着けばミネアが無言でコーヒーのカップを置いてくれた。少しコーヒーの表面が波立っているのはミネアの機嫌によるところで、チャーリーが「サンクス」と声をかけても無視してキッチンに戻ってしまった。なかなか猫は飼い主以外には懐いてくれないものだ。
 そんなチャーリーの心の葛藤を知る由もないレイフロはにこにことカップに口を付けている。
「ところで提案があるのだがね。チェリー君」
「なんでしょう」
「ドライブに行きたい!!」
 急に何を言い出すのかと思えば。だがレイフロは急に外が恋しくなったらしくミネアに西海岸の地図を持ってこさせて、既にドライブの行き先を検討し始めている。もともと休日にどこかに出かけようと思っていたチャーリーは仕方なしにレイフロの指さした場所を確認する。
「この西の渓谷辺りいいんじゃないかと思うんだが」
 チャーリーが場所とルートを脳内で確認していると、身を乗り出して地図を押さえていたレイフロが「あ」とちいさく洩らす。何事かと見上げると「出てきた」と何気ない顔をしてガウンの裾を使って尻から内腿のあたりを拭うから、チャーリーは何が「出てきた」のかを察して火を吹く勢いで一気に顔が赤くなる。
「とりあえずシャワーを浴びてください!」
 がしっとガウンの前を合わせさせると、床を汚さないようにレイフロを横抱えにしてバスルームまで疾走。なんとか押し込んだ。
「え〜、責任とってチェリーが洗ってくれないの?」
 などとバスルームから呑気な声が呼び掛けるが、そんなことをしたらまた部屋から出たくなくなってしまうに決まってる。
  





【後記】

「連休中にベッドから出ずにいちゃいちゃする」チャリレイです。
 当サイトでは初めてのえろになります。ぬるいんですが、すごく書くのに時間がかかりました・・・。この短い文章の途中で「もう書けない」って何度思ったことか。
 こういうのって気持ちを吹っ切るのがコツですね。我に返っちゃいけない(笑)。
 ちなみに私はえろすは露出が多いよりもチラリズムの方が萌えます。なのでこのくらいのぬるさの方が自分的には丁度いいんじゃないかな。本当はもっと致しているかどうかを曖昧にする予定だったんですが、何故かこうなりました。ちなみに一番の気に入りは擽りっこです。チェリーに「はは」って笑わせちゃったよ!
 それから汚れた口をナプキンで拭かせたかった(笑)。ティッシュペーパーとかでもいいかと思ったんだけど、それじゃリアル過ぎて楽しくないかなと。『食事』の延長のつもりでナプキンの方が面白いかと思ったんですがいかがでしょう?
 そんなこんなでいちゃいちゃな雰囲気を読んでくださってる方に感じていただけたら、うれしい、かな・・・。
 それから言わなくても分かってると思いますが、BLはファンタジーなので実際の行為とは違う部分が当然ありますよー。常識あるお嬢さんは、行為はそれなりの年齢になってから、好きな人とセイフティに楽しんでくださいね。
 ちなみに最後のくだり。ドライブネタも考えているので、そちらは普通にmainのページに載せたいです。そのうちね。


2011.9