※attention!!※
作中登場人物の絡みがあります。チャーリーはほもじゃないわっ! と思ってる方は読まずに戻られることをお勧めします。



N VALLEY 3



「気が済みましたら、棺まで連れて行って差し上げますから」
「なにその発言。腰が立たなくなるまでするって予告?」
 まだチャーリーの口元をふらふら彷徨っていた手を掴まれると手のひらに、手首にとキスを落とされる。咬まれたわけでもないのにぴりりと痺れて、俺も相当侵食されたものだと思う。立派な cherry addict だ。最近はチェリーにかまけ過ぎて棺で寝てなくて、そろそろしっかり休まなくてはマズいと思っていたのに、身体に欲望の火が灯ってしまった。
「せっかくおとなしく引き下がってやろうと思ってたのに。責任はしっかり取ってもらうからな」
「取ります。だからお好きなだけ欲しがってください」
 もう今日は棺で眠ることを諦めたと告げると、水どころか蜜がしたたるほどの色男がうれしそうに、そして挑むように、笑った。その時、レイフロの身体の奥で何かが弾けた。弾けたというよりも爆発したという表現の方が近いかもしれない。衝撃に頭が真っ白になるくらいの、爆破スイッチを押したのはチャーリーだ。
 何その顔、ヤバいだろう! チェリーのくせにそんなエロい笑い方どこで習った? 無自覚にフェロモンを振りまくのは相変わらずというところか。その威力たるや100万ボルト並みだ。実際の武器よりも性質の悪いことに身だけではなく、心まで焦される。
 レイフロは笑顔ひとつで腰が砕けそうになるのを紙一重で持ちこたえた。ここで負けてはジョニー・レイフロの名折れだ。別に勝ち負けの問題でもないが。
 正直に告白すれば、自分にとってセックスなどはとうに飽きたことで、それがなければ生きられないとも思わないし、人生にスパイスを加えるにも足りないものだと思っている。仮に他人が自分を見てそれを欲しているだとか誘惑していると感じるのだとしたら、あくまでもそれは自分が「レイフロ」や「ピジオン」であるためのポーズに過ぎない。意外な事にそれに気が付いているのは、あの忌々しいインキュバスだけであろう事実が気に入らないが。
 ただ、こればかりは例外と言わなければならないだろう。今までの自分の主義を捻じ曲げる感情。クリスへの思慕は想像を超えるもので、欲しいと思う衝動は飢血の苦しみよりも理性を突き崩し己の中で暴れまわるようになってしまった。
 衣服も身につけたまま、ベッドにも辿りついていない、碌に触れ合ってもいない今からもう蕩けてしまいそうだなんて。濡れてしまいそうだなんてあり得ない。自分はこんなにもはしたない、自己制御もできない身体だったろうか。口に出すのも憚られるような放蕩の限りを尽くした過去はあるが、こんなにも誰かを欲しがるようなことは今までなかった。いつでも頭の隅では冷静な自分がいたのに。これでは、まるで始めて恋を知った生娘のようじゃないか。
「欲しがって、くださるのでしょう?」
 俯いてしまったレイフロを覗き込むようにして、チャーリーが顔色を窺う。赤くなった目尻を見て驚いたようだった。そうだろう、自分だってびっくりだ。相手を煽るように欲しがる振りをするのは慣れっこだけど、本当に欲しくなったらどう振る舞ったらいいのか戸惑ってしまうなんて。
 気持ちを恥じることはないし、間違っているとも思わないから視線を逸らしたりはしないが、戸惑っているのは違いない。感情の波が伝わったのか、そっとチャーリーは両手で火照った顔を包み込むようにして、宥めるように唇を合わせる。上唇、下唇と順に食んで口の端にも。優しいキスは心を解して口元を綻ばせる。そうか、ポーズじゃなくても、ちゃんと正直に言葉にすればいいのだ。そうすれば気持ちは相手に伝わる。
「そうだな。クリス、抱いて?」
 その言葉を境に口づけが深くなった。地下の貯蔵庫で飲んだワインがまだ口の中に香りを残していて、ブドウの渋味と唾液の甘味が混ざり合う。至上のマリアージュに喉が鳴る。頬を包んでいたチャーリーの両手がゆっくり下へと肌を撫でた。ボタンが留められていないいつもの黒いシャツは、手が首から素肌の肩へと滑るだけで床に落ちてしまった。
「ここでは落ち着かないのでベッドに行っても?」
「そんなことわざわざ聞くな」
 几帳面に伺いを立ててくるチャーリーに苦笑してしまう。すべてがスマートにこなせないあたりはやはりチェリーというべきか。男なら黙ってベッドに連れ込めばいい。
「歩けないようでしたらお連れしますが」
 あー、そういう意味で聞いたのか。たしかに既に腰に力が入らない状態で、しがみついていないとへたり込んでしまいそうなのだが。さすがにチェリーも気が付いていたらしい。
「・・・連れてけ」
 こんな女みたいな状態が気恥ずかしくてわざと鷹揚な調子で答えれば、チャーリーは極上の笑顔で頷いた。


 ベッドに辿り着くまでの僅かな時間さえも待ちきれない。
 細胞のひとつひとつがクリスを欲しがってざわめいている。騒ぐな焦るな!と自分を叱責するけれども落ち着くはずもない。シーツに膝をつくなり、ざわめきを鎮めるためにチャーリーにしがみついて、意識してゆっくりと呼吸を試みた。裸の胸がどきどきと波打って一糸も乱れていない彼の服に擦れる。
 服の上から触るのもまどろっこしくて裾から手を入れて素肌の背中に触れようとすれば、制してチャーリーはばさりと服を脱いだ。乱暴に頭を通したせいでさらさらの金髪が乱れたところも男くさくて愛おしい。それから首に掛る金製の十字架を片手で外すと脱いでくしゃくしゃになった黒い服の上に乗せて床に置く。たしかにゴールド製であってもこんなものが素肌に触れるのは心地良いものではないからな。さっさと外してもらうに限る。というかなんで今でも十字架なんかぶら下げてるかな。レイフロは少し不満に思うが、今はそんな問答をする余裕はない。
 早く、早く、と先を急ぎたくてレイフロは、チャーリーの腰に巻き付いたベルトの金具に手を掛けた。黒い革製の細いベルトは2重巻きになっていて、しかもベルトを留めている金具が小さい。片腕をチャーリーに巻き付けたまま、空いた方の手でベルトを外そうと思っているのに逸る気持ちが手元を狂わせるのか、元来の不器用が祟ったのか、ひとつはすんなり外せたものの、もうひとつが外せない。きっと身体をくっつけたままの無理な体勢で事を成そうとしているのがいけないのだろうが、もう離れるなんて無理だ。
「あぁ、くそ・・・」
 思わず、自身を罵る言葉が口をついた。耳の後ろに吸い付いていたチャーリーが、がちゃがちゃと暴れる指先を捕えるとシーツの上にそっと降ろして、自分のベルトに手を掛ける。あっけなく金具が外れてベルトの先が落ちた。
「・・・憎たらしい手だな」
「私は不器用なマスターの手も好きですよ」
「そういうこと言う口も憎たらしい」
「それはちょっと困りますね」
 嫌われたらキスができないじゃないですか。なんてかわいいことを言う。
「憎たらしい程の、キスをしてみろよ」
 挑発するつもりが、声が掠れてしまった。それがかえって効果があったのかチャーリーが重心を掛けてくるように唇を重ねた。勢いよく倒れないようにと、後ろで支えられた頭がゆっくりとシーツに落ちる。雲のように白くてふかふかで、沈み込むようなベッドでチャーリーを迎える。多幸感に満たされる、ここは天国だろうか。


 ふにゃりと弛緩した様子で、こちらの動きに反応してシーツに頭を擦り付けるレイフロは間違いなく行為に夢中になっている。重ねた腰の間で触れ合うお互いの中心も、ボトムスの布地を挟んでさえ分かるほどに熱を持って存在を主張している。
 必死に自分を求めてくるレイフロに、チャーリーは目眩がしそうなどの幸せを感じた。
 それがたとえ一時の希求だとしても。
 彼が求めてくれるのであれば、全力で応えたい。失望されたくない。祈るような気持ちで肌に触れる。触れた場所から言葉にならない想いが彼に注がれればいいのに。独占したい気持ちが、感染すればいいのに。
 首元に頭を埋めて、口が触れる場所に吸い付く。今日は肌に穴を開けたりはしないけど、食事の時のように痛みを堪えるような、切なそうな呻き声があがる。彼の腰が蛇のように蠢いてさらに熱を煽る。ずくずくと熱くて溶けそうなのに、実際には硬度が増すのが不思議だと思う。食べてしまいたいほどに愛しいのに、彼の内側に思いの丈を吐き出してぶち撒けたい。抱きしめたいと思うのに、彼に埋もれたい。自分の中で相反する願望が渦巻いている。
 自分の欲に翻弄されているチャーリーの、浮いたスラックスのウエストの隙間からレイフロが手を忍び込ませた。尻の肉を掴まれて「ぅあっ」と裏返った声が上がる。シーツに頭を押し付けたままレイフロが声もたてずに、笑う。長い前髪が乱れて目元は隠れてしまっているが、紅潮して、いつもより赤くなった唇の端が妖艶につり上がるのが見えた。仕返しに、重なる熱を擦り合わせるように上下に腰を動かす。下着の中で尻を掴んでいた指先が強請るように爪を立てた。更に重なるようにとレイフロが脚を絡める。裸足の踵が、足の指がチャーリーの脚を撫でた。
 脚を服の上から撫でられただけでも、感触はすべて下腹部に集まる。快感なんてものじゃない、暴力的なまでの欲求は飢血のそれに似ている。眉を顰めて、自分は動きを止めて、暴走しそうになる衝動をやり過ごす。一息つくために言葉を紡ぐ。頭を使わないと、体がどうにかなってしまいそうだ。そしてどさくさに紛れてレイフロの本心を引き出すことができればと多少の打算が働く。
「今度は煙草一本分だなんて言いません。あなたは、私をどうしたいですか? どうされたいですか? ・・・どうぞ仰ってください」
 チャーリーはずるいことを言っていると自覚しながら言葉を続ける。
「私は、全部、あなたのものなんです」
 「俺も」と、同じように言ってほしいと期待している。あなたはすべて私のものですか? あなたは私を「俺の」と言うけれど、自分を「お前の」とは言わない。実際にそう思っていないのか、言うつもりがないのか、欲しい言葉は返ってこない。
 焦れてチャーリーは唇に噛みついた。
 あなたが血を吸った相手もこうしたのだろうか。あなたがビジネスを共にしている誰かは、この味を知っているのだろうか。
 思いを悟られないように、できるだけ優しく丁寧に咥内を撫でて舌を絡ませた。ん、ん、とベッドの上ではうるさくしないレイフロの口から甘い声が洩れはじめる。いつも息を荒げるのは自分の方だ。理性を飛ばすのは自分だけだ。すべてが自分のものでないなら、せめて欲しがってほしい。狂おしいまでに、身を捩って求めてくれればいい。耳に心地良い低音。もっと声を出したっていいのに。
「・・・ねぇ、マスター?」
「ん、もっと、・・・触れよ。遠慮するな。チェリーのくせに、んぅ、自分を、コントロール・・・しようなんて、生意気っ」
「は・・・生意気で、すみません。・・・他に、ご要望は?」
「誰も、触れたことのない、っ一番奥まで探って、・・・貫いて、串差して・・・それから」
「・・・それから?」
 もっともっと要求を引き出したい。
「意識が、っ、ぶっ飛ぶまで、揺さ振って、叩きつけて・・・!」
 レイフロの言葉に、一気に頭に血が上った。ガツンと殴られたような衝撃。ぶっ飛んだのはチャーリーの方だった。後は限界を超えた空腹の時と同じ。ただひたすらに彼の甘美に溺れるだけだった。
  





【後記】

 げほげほっっっ、なんか今回も恥ずかしいな! ベッドの上のお話はここまでです。次は・・・なんだろw?
 チャーリーの衣服は5巻特典つきの表紙を参照なさってくださいね。あの服、どちらのも好きなんですよ〜vvvカワイイヨネ。レイフロはいつもの黒シャツスタイルということで。
 文章を書いててるをいの頭の中お花畑なんじゃないかって自分で怖くなったんですが(笑)、どうでしたでしょう。「してる」ところは省かせていただいたんですが、それでもマスターの乙女病みっぷりったらwww そしてやたらちゅっちゅちゅっちゅしてる・・・。
 当サイトのマスターはチェリーにめろめろです。チェリーもマスター大好き。そういえば、「狂気を含まなければ、それは恋とは言わない」らしいです。病気な程に相手を好きなのが恋。
 いいね恋って! 恋バナ大好きです!
 こんなの書いておいてなんですが、読んでくださった方がドン引きしなければいいな、、、とひたすらに願っております。



2011.11