流鳥様からの頂き物ですv






[それでも 恋とは違うもの]



冷水を芯まで凍える程浴びて着替えたというのに、両手は休む間も無く
キーを叩き続けているというのに、視界には見慣れたパソコンの画面し
か映っていないというのに。
まだ生々しく皮膚に時折蘇る柔らかな輪郭の感触よりも、彼の面影を克
明に映す面差しに違う表情と声と仕草よりも。

記憶を総浚いするかのように、思考の内があのひとのことで埋め尽くさ
れていく。

 幼い頃、初めて見た笑顔。
 私を置いて去って、追いかけてももう何処にも見付からなかった背。
 幻かと思った、再び目の前に現れて確かにそこにあった姿。
 その雰囲気を違えた落差の“現実”。

幾度となく飢えに耐えかねて、手を伸ばして掴んだ腕。
時折誘い掛ける手も声も、何もかもが許せなくて。
憎んで、怒りをぶつけて。自分の痛みと感情にかまけて。
裏切られたのだと、思い込んで。
・・・・・あのひとの瞳の奥に揺らぐものも、優しい温度も、
何も知りたくなどなくて、気付かない振りをして、酷い言葉を投げて。
それでも、幼い頃から身に染み付いた信仰に逆らって生命を自ら葬り、
魂の安息の希望を捨て去る覚悟は無くて。
自分勝手に、生き延びるための糧としてだけ求めた。
それでも、あのひとは私の手の届く場所から・・・居なくなってしまう
ことはなくて。

その長い日々の内で、ほんの少しづつ何かが変わってゆく。
・・・・・そして

 あのひとが笑う。
 もう一度、傍に居られると思った。
 屈託無く無邪気に向けられるそれを、この手で守りたい。
 まだ、私は何ひとつ貴方のことを本当に知りはしないけれど。
 それでも構わない。
 以前までと同様に、きっと段々と変わって行ければと。
 ・・そう、思って。
 何時の間にか、それが違えない未来だと信じていたのに。



 何故、
なぜ、
哀しい顔で微笑う貴方に、この手が届かない!
 如何して、
どうして、
貴方が意に染まない“誰か”の“所有物(もの)”だなんて・・・・!!


気儘に我儘に、悪戯に私を振り回す貴方が。
唯々諾々と、それを認めるというのだろうか。
取引ゆえに、繰り返し繰り返し身を売り渡し。
抗えない力の元に屈して、ささやかな日常を諦めるというのか。
 ・・・・そして。
私には真実を何も知らせないままに。
時折舞い降りて、優しくその腕を伸べて。
何事も無かったかのように笑って、その身を委ねて。
一時(ひととき)の夢のように、また飛び去ってしまうとでも?
そんな・・ことを。
私に、認めろというのですか。


嫌だ。
嫌です。
そんなのは、嫌です。
そんな理屈に合わない不自然を、どうか許容しようとしないでください。
哀しい顔で、優しく微笑わないで。
その魂に許される筈の自由を、どうか放棄しないで。


嫌なんです。
貴方がいってしまうのが。
笑って居なくならないで。
消えないと、本気で誓ってほしい。


 ・・・・・・・・貴方は、まるで睦言のようだと。
 からかうように笑って曖昧に微笑むのだろうか?
それでもきっと。
これは、恋とは違います。



      嗚呼、そんな言葉で容易く片付けられるものならば。













『vasめも。』の流鳥さんよりいただきましたぁ!(ハイテンション)
ブログで「『智恵子抄』をチェリーにやらせたい。」と戯れ言のように言っていたら、わざわざ背景まで調べて書いてくださるとか・・・! 感動しました。本当にありがとうございます。
はぁ、素敵素敵。やっぱりチェリーに智恵子抄合うわ〜。
そしてそれは「恋」っていうんだよ、チェリー?


とても素敵な作品ですが、無断転載はくれぐれもご遠慮願います。
どうぞご了承くださいませね。



2011.11