流鳥様からの頂き物ですv






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 ・・・時計の示す時刻を見てみれば。
すっかり朝の家の中を漂う、独特の香り。
用事があって明け方近くまで起きていたためまだ少しぼんやりした思
考で根源を探してリビングの扉を開けると、何だか至極得意そうにマ
スターが足早に寄って来た。
「グッモーニン、クリス!
今日は!
ちゃーんと自分でやったぞ〜♪」
ダイニングテーブルの上に置かれているものは。
コーヒーメーカーとコーヒーミル。
二人分のカップとソーサーにティースプーン。
ミルクピッチャーと、小皿に乗った半透明の小石のようなブラウンシ
ュガー。
「・・・また、珈琲ですか?」
前のものとは違う香りに、くん、と軽く鼻をうごめかすと。
量り売りしてくれる店で少しづつ買って来たんだと銀色の小袋を十ば
かりもずらっと並べて、どーだ、と明らかにこちらの反応を窺ってい
る。
・・以前、料理をしようとして食材を買って来た時もそうだったが、
このひとは条件付けが無いとこういうものを絞り込むということが得
手ではないようだ。
 ・・・・・ところで。
コレは、誉めてほしい、ということなんだろうか。
片手を伸ばして、掌で頭の上を軽く撫でてみると少しきょとんとした
が嬉しそうになってもっと撫でろ、とばかりに擦り寄って頭の角度を
変える。
「ん〜v」
ふと、間近にある髪の流れが何となく全体的にくしゃっとしていて、
目の縁が薄らと赤いことに気が付く。
「・・マスター、実は既に何かぶちまけて片付けに延々掛かっていた、
などということは」
目元を指先で軽くなぞってみると、
「あ〜・・ 違う、って。
待ってただけだぞ」
今日は二人っきりで朝の珈琲な♪と笑う表情に、やれやれと溜息をつ
いた。やらかしてたんだな。
「まあ、折角淹れて下さったので一杯お付き合いしてもいいですよ」
自分がサーブするから、と促してリビングのソファに追い遣る。
ミルクを温めて、二人分のカップに珈琲を注ぐとミルクピッチャーと
砂糖皿も盆に載せて運ぶ。
「はい、どうぞ?」
「お〜
・・ってコレ、ミルク入れ過ぎじゃないのかぁ?」
嘆息を零して大分白色に近いそれの匂いを嗅いでから、
「・・・・・・・・。
で、何でおまえのはそーなの。
選択権は砂糖だけか?
珈琲淹れたの俺なのに〜〜!」
ブラックのままだった自分の分に素知らぬ振りでミルクを少し加えて
口に運んでいた私に非難の叫びが飛んでくる。
「・・・・。
さっきから何度もこっそり欠伸していたひとは、それを飲んで早く寝
て下さい」
「・・・ぅ」
バレてた?とカップの陰に口元を隠すようにしたマスターが少々ばつ
の悪い表情をしてから。
ぱっ、と手を伸ばして私のカップを奪い取る。
「あっ!
コラ!何するんですかっ」
「それでもやっぱ、ズルイから〜〜ぁ・・
混ぜる!」
濃いほうのカップから自分のほうへ足そうとするのを慌てて制止しよう
と手を伸ばす。マスターはまだ口をつけて無いのだから、余り余地の無
いほうに無造作にそんなことしたら・・・
「・・あ」
「あ」
下のカップの縁から零れた薄茶色の液体がリビングのテーブルの上に池
を作った。慌てて引いた拍子に傾いだそれから彼の手に伝い、ソファに
まで零れる。
「・・・・マスター?」
「・・・・・・ハイ」
あはは・・と空笑いしてどうしようかという風に止まっているのを眺め
て深々と嘆息する。
「どぉおしてそういうところまで子供みたいなんですか!
どうせなら、逆に入れて交換すれば良いでしょうが・・」
「あ。」
「あ、じゃありません!
気を抜くと直ぐ全くこう・・・」
カップを取り上げて脇に避けて置き、拭く物を取りにいこうと腰を上げ
ると、くくっ、と聴き慣れた音がした。
「・・笑ってないで。
貴方も自分で手を洗わないと」
振り向くと、珈琲入りのミルクに塗れなかったほうの手で膝に肘を突い
て。何故だか嬉しそうな表情が自分の影が映る卓上の池を眺めていた。
「・・・・
うん。
いや、ま・・
牛乳だらけの珈琲もそんなに悪くは無いか、って思っただけ、だ」
「・・・・
入れ直します。
今度は半分づつにしてあげますから、一杯飲み切るまでは欠伸は我慢し
てて下さい」
「え〜?」
それはつまり、冷め切るまでちびちび頑張れってコトなのか?!と本気
で可笑しそうに笑い出したマスターの軽口に、
「ご随意に」
と返して。


  カーテンを閉め切ったままのリビングは、
  ごく一般の“朝”らしくはけして無いものだろうけど。
   珈琲と暖かいミルクの香りが漂うそこは。
  間違いなく、今は平穏な日常の匂いに満ちていた。













『vasめも。』の流鳥さんよりいただきました♪
6巻の通常版表紙が辛いので明るい話が読みたい! って言ったら書いてくれたよvvv いつも素敵なお話をありがとうございます。ほのぼの〜。
もうマスターったら何やってるのwww 本当、流鳥さんのとこのマスターはかわいいですね!
そして世話焼きチェリーvvv サーブをかってでたのはコーヒーを零されるのを恐れてなんでしょうか(笑)。


とても素敵な作品ですが、無断転載はくれぐれもご遠慮願います。
どうぞご了承くださいませね。



2012.3