東風(呉様からの頂き物ですv)



 滔々と更けていく夜の中、レイフロとチャーリーは黙々と帰り道を歩いている。
 その間を、ふと一陣の風が通り抜けていった。

「気持ちいいな」

 言ってからレイフロは、風をなぞるように口笛を吹いた。

「夜に口笛は不謹慎ですよ」

 咎めるような低い声に、しかしレイフロは飄々として返事をする。

「ああ、口笛を吹くと泥棒が来るんだっけ」
「幽霊ではないんですか?」

 言った途端に顔をしかめたチャーリーは、恐らく軽口に乗ってしまったことを後悔しているのだろう。でかい図体しやがって相変わらず餓鬼臭ェな、と思うだけに留めたレイフロは一瞬だけ目を細めた。
 そういう彼の態度も悪戯小僧のようだ、とつっこむ者はここにいない。
 いるのは夜の散歩を楽しむカップルくらいだ。

「こういう中でやってみるのも、なかなか情緒深くていいかな」

 言葉の意味がわからずレイフロを見返したチャーリーは、はだけられた首筋を見て硬直した。自分の体温が――もともとないに等しいものであっても――あっという間に下がっていくのがわかる。

「結構です」

 断定口調に、相手は怯む様子がない。

「そこを何とか」
「頼み事も大概にして下さい」
「俺がいつ頼み事をしたっていうんだよ」

 チャーリーのこめかみが、ぴくりとひきつる。

「30分前。迅速に帰るために歩幅を早めたら、景色を見ながらゆっくり歩きたいと文句をつけた。1時間前。近道しようとしたら、昨日も歩いた道は嫌だと駄々をこねた。3時間前。今日はこの辺で切り上げた方が良いと提案したら夜はこれからなのだから大丈夫だとわけのわからない理屈をこねだした。半日前……」
「ごめんなさい」

 延々と続きそうな口上だったが、全て身に覚えがある出来事だ。これ以上傷口をえぐり出される前に謝ったレイフロは賢明である。
「……それに」

 まだあるらしい。レイフロはうんざりしたようにもう一度謝罪の言葉を述べようとした。

「だから、悪かったって……」
「昨日頂いたばかりですから」

 ともすれば呟きにしか聞こえない言葉を吐いた後むっつりと黙り込んだ相手の顔を、レイフロは思わず覗き込んだ。

「もしかして、俺のこと心配してくれてる?」
「……」

 沈黙が、かえって肯定となってしまう。

「……食糧として、です」

 チャーリーは言い捨てると、早足でレイフロを追い越していく。
 その姿を見送ったレイフロは、弾かれたたように後を追いかけた。
















呉様のvassaサイト「アケノソラ」のニアピンなキリバンを踏んで頂いてきましたvvv
呉様のお話はノリといい、悪戯っ子みたいなかわいいマスターやツンなチェリーといい、笑いありほんわかありな展開といい、もうすべてがツボにはまって大好きです。
お願いしたリクは「ツンなチェリーがレイフロに『うっかり』自分がレイフロのことを大切に思っていると言ってしまいあたふたする」お話でした。寒いリクをしてしまってすみません(>_<)  でも書いていただいてすっごく嬉しかったです
マスターの頼み事を覚えていて羅列するチェリーとすかさず謝るマスターがかわいい!
自分の好みのお話を大好きな方に書いてもらえるなんて、キリリク制度って素晴らしいですね。

とても素敵な作品ですが、無断転載はくれぐれもご遠慮願います。
どうぞご了承くださいませね。





2010.03